依頼者の人生のひと時を背負い、次の岐路まで共に歩む。
私はそれが探偵の仕事だと思っている。どんな場合であれ、依頼者にとっては人生を左右する重大な事件であり、それらは大抵直視したくない現実を連れてくる。
一言で「浮気調査」と言っても同じ事例は二つと無く、毎回気を引き締めて臨まなければと思うもの。
しかし特にこの例には、自分がプロの探偵として、そして一人の人間として奮い立たされるのを感じた。
依頼者は40代のUさん。あまり社交的ではなく大人しそうな印象だが、真面目で信頼できそうな男性ではあった。
依頼内容は妻の浮気調査。
実は彼は2年前から妻の浮気に感付いてはいたが、子どもがまだ小さいため離婚を望まず、そのうち別れてくれるだろうと見て見ぬふりをしていた。
しかしあるとき近所の人から「お宅のお子さんが、寒空の下パジャマ一枚でたびたび外に立たされている」という話を聞き、離婚へ踏み切ることを決心。
なぜ我が子にこんなことをするのかと問いただしたかったが、ますます子どもへの風当たりが強くなる恐れもある。
ここは、冬場の最低気温が平気でマイナス十度を超える北の街だ。
虐待ともいえる仕打ちを放置していれば、最悪の事態を招くこともあるかもしれない。
一日でも早く離婚に必要な材料を揃えようと、いつも以上に気合が入った。
つづく
※ご本人の了承を得て記載。年齢、背景などは変えています。